日産の“6ドア6人乗り”高級SUVミニバンが凄い!全長5m級のコンセプト「インフィニティ クラーザ」
2005年1月、米国デトロイトで開催された北米国際オートショー(デトロイトモーターショー)において、日産の海外向け高級ブランド「インフィニティ」が一風変わったコンセプトカーを披露した。その名は「インフィニティ クラーザ」。全長約4960mm、全幅約2030mm、全高約1930mm、ホイールベース約3124mmという堂々たるボディを持つ、3列シート6人乗りのSUVだ。
しかし、このクルマの最大の特徴はサイズやパワートレインではない。なんと、6人の乗員それぞれに独立したドアを備えた、6ドアという極めて異例のスタイルを採用しているのだ。しかもそのドアは左右とも後ろヒンジの観音開き式で、2列目と3列目のドア間のピラーをなくした大きな開口部から、まるでリビングに招かれるかのように乗り込むことができる。さらに、車体下部からは照明付きの分割式サイドステップがせり出す仕掛けも備わっており、乗降のしやすさにも細心の注意が払われている。
デニムに合う。履くだけで「ちょいワル」Tapoon 開発を手がけたのは、日本・厚木にある日産テクニカルセンターのチーム。開発を率いたプロダクトデザインディレクターは、このクルマについて「クラーザは移動手段ではなく、おもてなしのためのもの」と語り、上質な住まいの客間のように、毎日使うためにデザインしたのではないと説明している。つまり、クルマを単なる移動の道具ではなく、乗る人すべてをもてなす空間として再定義しようとしたのだ。
その思想はインテリアにも色濃く反映されている。2列目と3列目は後方を一段高くしたスタジアム配置とし、段状のルーフラインや回り込むリアガラス、3枚のガラスルーフと相まって、6人全員がパノラマの眺めを楽しめるように設計された。シートベルトは各シートに内蔵され、中央を貫くセンタービームコンソールが一人ひとりの空間を仕切ることで、プライベート感を高めている。
また、和のテイストを随所に取り入れた点も見逃せない。シートバックは十二単を思わせる重ねの造形で、インフィニティのロゴは家紋の位置に配された。内装の素材は外側にレザー、内側に生絹を用いる「裏勝り」の考え方を採用。さらに縦長の16インチ×6インチのセンターモニターは、掛け軸の現代的な解釈としてデザインされたという。エクステリアも、前から後ろへ流れる動きと筆づかいのような光の映り込みを意識。ルーフを一周するアルミ調バンドや伝統のダブルアーチグリル、馬車のランプを思わせるスポットライト内蔵ミラーが、個性的なスタイルをさらに際立たせている。前後ランプはマルチレンズのLEDで、ヘッドランプ内にはサラウンドビュー用のマイクロカメラを内蔵し、死角の障害物をセンターモニター上部に映し出すなど、先進技術も盛り込まれた。足元には23インチのアルミホイールに専用のダンロップ305/45R23タイヤを組み合わせている。
ただし、この革新的なコンセプトは必ずしも万国共通の賞賛を得たわけではない。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルの読者投票では、69%が市販化に否定的だったと紹介されている。インフィニティ幹部自身も「未来的だが、革新的と現実的の間にある」と評しており、あまりにも尖ったアイデアに市場は戸惑いを見せたようだ。
結局、クラーザ自体が市販化されることはなかった。しかし、そのDNAは後に受け継がれている。インフィニティは2012年春、ブランド初の3列ラグジュアリークロスオーバー「JX」を投入し、2014年モデルから車名を「QX60」に変更。さらに2020年には、次期QX60のデザインを示す「QX60 モノグラフ」が公開された。グリルには折り紙、パノラミックルーフには絹の着物の折り目に着想を得たパターンなど、日本的な意匠が採り入れられており、クラーザが掲げた和の主題とも響き合うものとなっている。
シートの数だけドアを与え、荷室よりも人のための空間を優先したクラーザ。投票では厳しい評価も受けたが、「3列目をいかに特等席にするか」という問いは、いまの3列シートSUVでも重要なテーマであり続けている。移動手段ではなく、おもてなしの空間。2005年のデトロイトで示されたこの一台は、6人全員を等しくもてなすという発想を、極端なかたちで提示したデザインスタディだったといえるだろう。
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