ニュルで炙り出し、S耐で即修正。トヨタGRの人材育成とアジャイル開発の真実
トヨタ(GR)が掲げる「もっといいクルマづくり」と「モータースポーツを通じた人材育成」。この二つの思想を体現する現場が、今、熱い。
舞台はドイツ・ニュルブルクリンク24時間レースと、その直後に日本で開催されたスーパー耐久シリーズ第5戦(オートポリス)。過酷なニュルで炙り出した課題を、わずか数週間後のS耐で修正・検証する。このアジャイルな開発サイクルこそが、GRの進化の原動力だ。
冷房ゼロで涼しいミニギアAirio Pro 2026年5月のニュル24時間。GRヤリスDAT(32号車)は高負荷走行によるセンターカップリングの高温化で、パワートレイン交換を余儀なくされた。しかしチームはこの失敗を即座に解析。冷却風を効率的に取り込むためアンダーフロア形状を見直し、NACAダクト形状を追加。空気抵抗(CD値)を悪化させずにフロントのダウンフォース(負圧)を向上させる高度な空力チューニングを施し、オートポリスに持ち込んだ。
しかし、ハードウェアの進化以上にトヨタが重視するのは「現場で戦う人の成長」だ。
メカニックの南剛史さんは語る。「人材育成と言っても、職場は『レースができるようになって嬉しい』ではなく、『何を学んできたか』を重視します。タイヤ交換が速くなっても、職場のメリットにはならないからです」。彼が持ち帰るべきと実感するのは「マインドの変化」だ。「試験であれば細部までやり切る準備、諦めない気持ち。レースをやっていると『絶対に最後まで諦めない』『自分で細部までやり切る』という変化が生まれます」。
2024年からニュルのエンジニアリーダーを務める久富圭さんは、量産車開発との決定的な違いを指摘する。「モータースポーツでは『ドライバーの声』や『感性』にどれだけ耳を傾け、応えられるかが重要です」。データ上は異常がないのに、ドライバーが「違和感」を訴えた事例があったという。「深掘りしながら聞き込むことで、ノイズかと思ったレベルの違いに気づけました。プロの感性を活用し、我々も学ばせてもらっています」。
タイの現地法人から派遣されたエンジニア、ミューさんは日本の現場の「当たり前」に衝撃を受けた。「タイでは壊れたら準備して交換するスタイルでしたが、日本の事前準備やマネジメントの徹底ぶりは素晴らしい。この『当たり前』をタイに持ち帰り、モータースポーツのレベルを引き上げたい」。
「道が人を鍛え、人がクルマをつくる」。ニュルからS耐へ。トヨタGRの挑戦は、表彰台の先にある、人とクルマを鍛え上げる揺るぎない哲学の実践だ。
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