BYD ラッコの真価は航続精度と安全ボディ 軽EVの概念を覆す仕上がり
SNSを中心に大きな話題を集めるBYD(ビーワイディー)初の軽EV、その名も「ラッコ」。今回は最上級グレード「300プレミアム」に試乗する機会を得た。価格は249万7000円。正直、この装備内容でこの価格は、予想より70万円ほど安く感じた。国産メーカーなら同じスペックをこの価格で作るのは難しいだろう。
そもそも補助金を前提に価格設定する国産軽EVと違い、ラッコの補助金適用額はわずか15万円。購入後4年以内に売却しても、返済は容易な額だ。つまり、ラッコは補助金に頼らず、クルマの価値そのもので勝負しているという印象が強い。
夜間運転用メガネが今ドライバーに急増中ナイトライダー 走り出してまず驚いたのが、バッテリー残量と航続距離表示の正確さだ。WLTCモードで公称320kmに対し、借り出した個体は満充電で320kmを表示。試乗中も、電費を意識した走りをすれば表示以上の距離が伸びる場面があった。リン酸鉄バッテリーを熟知するBYDならではのエネルギーマネジメントの巧みさが光る。
走りも秀逸だ。車重1230kgという軽自動車としては重めの数値だが、その重量がどっしりとした安定感を生んでいる。タイヤは中国の新興メーカー「サイルン」製だが、日常域では音振性能もグリップも十分合格点。強いて挙げるなら、EVらしからぬ発進加速の物足りなさと、クリープ力がやや強めな点だが、これらは重さと設定のトレードオフだろう。
室内空間はスーパーハイト系のサイズをフルに活かし、ライバル国産軽EVより明らかに広い。リアシートはスライド可能で、ダイブダウンもできる。ただし、リアシートを元に戻す際に座面が一緒についてくるため操作が重く、ストラップ式のスライド調整は多少チープに映る。リアゲートの開きが高く、背の低い人にはツラい点も改善ポイントだ。
このクルマの真の神髄は、実は走りより安全性にあると筆者は見る。従来のBYD製EVが採用していた8in1のeアクスルから、フロントにはモーターとデフのみの2in1を採用。これにより82mmものクラッシャブルゾーンを確保し、歩行者頭部保護にも配慮している。
さらに、バッテリーを車体構造の一部として使う新技術「CTB(セル・トゥ・ボディ)」と、残りの6機能をバッテリーと一体化させた「Xパック」により、ねじり剛性を34%も向上。横方向は1200MPa級ハイテンと2000MPa級ウルトラスーパーハイテンで補強し、ルーフはシームレスなレーザー溶接を採用する。スライドドア車でバッテリーとの干渉を解決しながら、これだけの剛性を叩き出すのは国産メーカーも容易ではない。
気になる給電口は右側にあり、日本の左側壁付け充電設備とは相性が悪い。日本専用なら左側に付けてほしかった。
年間1万台の販売計画では採算が取れるとは思えないが、背後には何らかの戦略が透けて見える。純粋なクルマとしての出来は極めて高く、軽EVの新たな基準を示した一台だ。
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